創刊号自選句

地球ちやん

        手嶋崖元

食ひ散らし人の花咲く地球ちやん

水の春家庭崩壊高笑ひ

かあさんに目玉貰つて雛流し

頽廃の春星美女の切字かな

ロボットの脛輝けり春の闇

チューリップだけの世界で待つている

穴といふ穴焼ききれる沈丁花

ゲシュタルトその凶暴な知性落し角

玉椿死刑前日三面鏡

ねぢあやめあやめに似てる四月かな

村役場春の氏名を記入せり

ことごとく消へたる水や彼岸西風

ぶつちやけた話春野ののたれ死に

活け造り終へし人魚の目にレタス

カカンポン・カポ・ジロチョー氏野焼くかな

男爵の回転木馬風光る

金持ちだつた父いそいそと四月馬鹿

ミヨソティス束の間穴を見られをり

媚びてゆくまず鏡からヒヤシンス

弥生のまんじゆう弥生の味をしてまんじゆう

太い眉毛

        亀山鯖男

銀杏散る 黒人一回転して去る

煤払ひして歪みたる乳房かな

凍鶴の一足歩めば都かな

鴨撃つと云ひて果てまで行きにけり

雪女郎のやうだが太き眉毛かな

老獅子の力のありか偽の月

あたたかき橋を枕の狐かな

野遊びの右手の捌く虚空かな

桜漬俳句に足をとられけり

ダイエーと駅の間に空ありぬ

斜かひに胃袋ぶらぶら通るかな

晩夏・七曲りわが家にたどりつかず

夏休みの美僧ぞろぞろ海へ行く

さざ波は誘はれ上手でいけません

送り火やかたかた伸びる運命線

秋鯖は天使の股間を思ひけり

秋風に秋の数字を失ひき

みかん色のライオン晩秋のキャンパスへ

目瞑れば海の如くを芒かな

音大前秋の蝶ならどう通る




原三振

        長嶋肩甲

たばこ屋の春には店主やや動き

看板屋の看板ばかり春曇

春の海犬の名前をまた問はれ

珠算五級誇りし人とマンボかな

原三振ドームの屋根に寝ころがる

絵日記の海念入りに青く塗り

切り過ぎた髪気にしつつ宵祭

西郷さん少しく溶けており酷暑

夏の月妊婦夜なべで穴を掘る

夜の駱駝と最後の水を飲む

氷山のゆつくり氷山でなくなる

秋風に貴族五馬身離される

紫のびんた響くや秋高し

秋雷や百まで数へまた数へ

お土産のニポポの肌の寒さかな

火事跡に鋸拾う父みつけ

ベランダの間男眺む初茜

年男最初の洒落は一人ごち

小正月ひねもす力こぶつくる

哀しい目にしか作れない雪達磨

人魚の指

       鉄村明美

白木蓮靴脱げさうな少女かな

自動車の後部座席に春の花

教会の扉に風船結ぶかな

控へめなまなざしありて蒸鰈

蝶追ひて無防備に透きとほりたり

遠雷や人魚の指は熱おびて

道連れは身の丈ほどの鯰かな

炎天や塗り替へられし足の爪

夏果てる水の底には鏡無く

満月や魚は砂に埋められる

秋めきて鳥のろのろと穴ふさぐ

十五段進むも虫の声やまず

茹で栗や貴族の娘また笑ふ

白桃や八角形の寺廻る

シャツの背に悪戯描きす文化の日

傷のある狐絵本の中にゐて

残り火や冬薔薇の刺折り取りぬ

頬杖の手袋なほも冷たかり

とりどりの器並べる年の暮れ

押す力強き真冬の扉かな




桜人

          寺澤一雄

空堀の底へ降り行く桜人

雪洞に火点し頃の桜かな

花の山妻は帰つて来いと言ふ

伊那谷のその一谷に花の雨

花疲れして伊那平出て来る

極楽寺三丁目にて夕桜

鞦韆や温泉街の真ん中に

春の海路地の向かうに荒れにけり

春霞寝ながら山を見てをれば

井月の墓へ薺の花盛り

使ひ手の無き大鋏日永かな

葉桜や地獄草紙をめくりをり

代掻きの道具を置いて去りにけり

赤腹の歩くが如く泳ぐかな

物の怪の装束もまた土用干

嵐山あたりに住んで泳ぎけり

木下闇出て茶畑の明るさへ

種茄子になりますこのままぶら下がり

枯れ芦原に無数の音を確かめぬ

元旦の地を擦つて飛ぶ奴凧

極東に龍横たはり海市立つ

              村井康司

はなみづき休みの国にふたりゐて

白シャツが三枚干されねむくなる

夕凪や都市しめやかに出帆す

日蝕や王様のかほは蝉のかほ

くはがたの名はソクラテス夏休み

生卵割りて血のある銀河かな

唐辛子身の穴の数思ふべし

いもうとが怪獣になる菊日和

猫の足して行く秋や城下町

寝不足や首都大雪の予感して

てのひらで硝子は溶けず冬の恋

ポケットに甘栗満てりクリスマス

初夢は婆が投げたる餅つぶて

折りこはす旧本籍地の氷柱かな

節分の父鬼となりそれつきり

鞦韆に子泣きぢぢいと乗りゐたり

鳥帰る無数の私は正座して

朧夜に舌の長さをくらべあふ

家ごとに異教の神や春燈

亀鳴いて羅馬に侏儒と大をんな




ひかりたる

        蓮菩

かしこまり東に向きて二度くさめ

海老天を二本掴みて出初式

餅撒き黄金撒き鬼が来るのに

目借時鳥目の男散歩する

燐寸擦る弥生なかばの宵の街

チューリップ模様のシャツで敵迫る

をだまきやわたしわたしとつきまとふ

遠雷や引っ越してゆく酔っぱらい

夏雲やとびとびに踏む色タイル

もりやすのかつおもりだくさんのうそ

遠くより来たる烏賊墨ラブレター

蝶の骨風葬にする野分かな

こころみに指浸しけり草紅葉

行く秋の蔓草さへも惜しむかな

秋めくやみごもりて我たちどまる

港への坂かけおりる冬の朝

焼芋食って万国の民大行進

うらがへりたるあんかうのひかりたる

いつせいに立ちたる冬の姿かな

鉄パイプ二本立ちたる冬日かな

円口類

   川上弘美

春の夜の円口類の眠りかな

風無くて花烏賊ゆるく煮られをり

早春や左の耳に海ありて

うぐひすの切手貼りたる薄曇

其の人の動物に似て春の宵

手鏡の伏せられてをり朧月

C難度宙返りせる春のたましひ

入梅や日に一つ売る饅頭屋

夜店にて彗星の尾を見つけたり

炎昼や横たはりたる象使ひ

電球の斜め後ろに残暑かな

天井におはすぱくぱく様や秋

夜仕事や窓より遠く雨の降る

二の腕をそつと噛みたる銀河かな

蛇笏忌やパン屋しづかにうたた寝す

蘆原にたなびくどらえもんの群れ

露寒や穴にはきつと龍がゐる

捨てかねし片手袋のありにけり

十ばかり柩を埋めて山眠る

寒波来しバナナワニ園の夜明けかな




ペパーミントガム

        田辺一教

早春や世界で一番好きな人

卒業の夜に大きく歌ってよ

夏立つや横隔膜をくらいけり

傘だけで水に埋もれし街を行く

岩枕隣りで神は山女釣る

ペパーミントガムを盗みし堤防や

麦刈るや鎌引く手つきも危うげに

流星や語り終えずに石の段

異国とは言えない空の青さかな

悲しみは植木の並ぶ夏の暮

頼もしき鳥居潤す秋時雨

グスベリのソース楽しも山の夜

芒野はビルの近くと気づきけり

とんぼ寝るかまきり休む秋の城

無造作に柚子ひと山の土産物

短日に駆ける制服姿あり

冬休み硝子工場を覗きけり

電線の雪を一度に落とすかな

こっそりと寒柝を遣り湖畔かな

冬オリオンアーケード下肴町

夜気

       木内達朗

;山笑ふなら植ゑてみむ

探梅や蹄の型の保育園

春雷の音鳴りやまず幻燈機

早春や踵の下の砂流る

果に来て触れたる春の海ひとつ

木蘭や鏡の縁の薄曇

滝落ちて青きゼリーとなりにけり

滝壺ににほひのありて犬通る

最強のばい独楽さへも帰すかな

ながいもをながきすがたでもちかへる

駅の夜茸こぼしてしまひけり

溝板を鳴らし通ひぬ鳳仙花

像のあるピンクの家の夜長かな

踏切の我に返りて紅葉かな

落葉踏む音忘れないやうに踏む

手袋をぬげば手袋はめる夜気

裏となり表となりて焚火燃ゆ

冬晴に骨ばつかりの豊島園

さまざまに宇宙人だよ蜜柑かな

銀杏落葉行くところまで追はれけり




海賊

      古谷 和仁

写真などあまたの品や紫雲英原

撞球の曲がれる軌跡春燈

外電にバナナの国の王子の死

葉桜の都や昼の月生まる

梅雨寒の屋根の重さや朧銀

翼竜の舞ひし岬や夏休み

向日葵の花束振りて飛行船

海賊の呉れし煙草に蛾の絵あり

月読男と青蘆原の夜を渡る

夜濯のラジオささやく米国々歌

皇帝の生まれし午後の檸檬かな

闌秋やピアノ教師の束ね髪

西口の救世主(メサイア)と飲む秋の昼

長椅子の双子の裸婦や秋燈

霧雨や毛穴の奥に燐火あり

胡桃割れて怪盗ルパン目覚めたり

蚊の神の暴れをるかな灰神楽

司祭補は盗賊の長聖夜かな

底冷えや終着駅の大時計

やはらかきもの落ちる音深雪晴

みどりいろのしつぽ

             木綿

春の闇山椒魚の動かざる

雪解けや足指の爪切つてをり

恋猫の駆けゆく血みどろどろどろ

フラスコより溢るる蟻の群れかな

十五個の下駄そぞろゆく朝霞

身震ひの鳥飛び立つごと照紅葉

両手いつぱいの柿幼女転びぬ

秘めごとのなくしてしまひ時雨かな

窓にゐる染みと気の合ふ小春かな

内股でおじぎしてをり秋の蠅

かまくらに長靴埋まりゐてひとり

力なく海鼠切る吾の力かな

冬萌や膝に咲きたる超自然

冬銀河巨木の下のその目ぢり

細雪鱗粉色の海がある

虎落笛狐の自刎間近かな

冬めきて思ひつくまま転びしも

初雪をフラスコに溜め溶かしをり

抽斗にりろりろと音響きけり

わたしのしつぽがみどりいろになつた




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