11号選句



二本
杵子

龍天に登れば残る糞の山

西口の壁や蛙の目借時

春の風邪脱水槽は傾けり

護良の皇子の獄や相模は春

桜散る秘境の午後に五分前

橋越えて二足歩行となる五月

明らかと書く答案や夏来る

まんばうややつと仕上げた良い仕事

羅や細革鳴れる城の地下

海の日や父は少年急斜面

沸きすぎし入道雲や魚交る

米茄子は非常口から夜へ出る

美しき男を獲たり蛍の夜

盆前や葉書の舟に蝋を引く

蜩や歩きはじめて髪を解く

台のみの貨物車輌へ秋の雨

銅像と猫と大学秋休

台風の目にて喧嘩をいたしけり

指二本熟柿に入れて瘡かけけり

こほろぎや腕ぶんまはし土手を行く

センスなし(Nosence@all)
肩甲

駐在の蛇行している晩夏かな

あきのあめ「テレビのサザエさんが嫌い」

キスは雨のようにはふらない秋の尾道

さかなに骨終わった恋にくよくよする

目薬の効き過ぎ効き過ぎ寂しかる

デパートに出口あまたやそぞろ寒

はじめから平気でいればよい真冬

惜しまれて世を去る人と歩きけり

信玄とメカ信玄の散歩かな

かっこいいスポーツカーに顔写す

愛は油断ダイアルなのに押していた

恋は無断文庫をふせてしかられた

短日にピアノを噛んでいた子供

立ったまま寝るなバス停寝るなったら

蜂蜜の舐めないときも常に甘い

モンシロチョウ起きてるときも常に眠い

ベルリンにただの壁ある去年今年

美人だが面食いでしたちゃんこ鍋

着ぶくれて電車の中を歩くなり

乳房に手を置いてみる二月かな



めうが野
川上弘美

塩ふりてきゆうり一本食ひにけり

水滴の千や夏野の底にあり

人魚恋し遠き雷鳴聞きをれば

湯疲れの身に朝虹を見てをりぬ

日傘して海辺の町の娼婦なり

黒猫の闇より出でぬ半夏生

初茄子の水はじきをる浄土かな

丸ビルの空地にビルや梅雨深む

邪鬼踏みて仁王さみしき青葉かな

めうが野に出でてめうがを摘むばかり

豚濡れて桃色深む夕立かな

土蔵より葬列出でぬ凌霄花

掌に受けて天の光や夏百日

ががんぼの足ばらばらにしづまれり

一列に口を並べて鰯なり

堀りあてて去年の球根秋うらら

蜻蛉をくはへて犬や胴震ひ

夜長なりぶつかけ飯にじやこ匂ふ

少年の船の絵微細小鳥くる

秋の夜古家の屋根に猫うぢやうぢや

まる
遠藤治

骨よ響け萌えるオーボエ燃えるオーボエ

夏めくや鳥は電波に射抜かるる

くのいちのみづにおちたるあやめかな

梅の実をふたつ拾ひて子をつくる

梅雨闇のものみな交む深さかな

陽転を測る定規や夏燕

尺玉の蜂の巣ありて玉屋鍵屋

ひとまはり大き自転車夏木立

よくまはる夏ゆふぐれの地球かな

はじめからじつと見ている蚊遣豚

丸盆の転がり出づる夜涼かな

麦酒来て昭和の皮の栞挿す

水中に天敵多し夏の恋

欲望の蛋白質の海月かな

七夕の蛸の飾りに足多し

踊る背に郵便局と書かれをり

髪どめの灼け残りたる手首かな

脱ぐものも着るものもなし初嵐

ひとを抱く白昼長し震災忌

どの道もやがて涼しき隅田川



さとうさん
木綿

風花や猫は欄干歩みたる

月面の顔した男新茶かな

たんぽぽの鳩尾あたりを縦断す

たんぽぽの巧みな業や馬に風

走るとき光る電車や菜種梅雨

舌切つてガラスの島や草田男忌

からだぢゅう濡らしたままの懐古かな

レース編むわたしあなたの犬がいい

蔓草のタイヤに巻きをるくるくるり

さとうさんの手のひらふかふか文月

全員で逆上がりして秋の空

秋立つや短いことばが好きだから

あきざくら咲く初めての蛇踊

簡易式封筒の穴水澄める

あなた刺してあげると言われる九月

ドーナツの穴のやさしさ秋の山

黒茶色黄色の波や秋暑し

すはだかのわたし動けず鳳仙花

自転車の店にトンボ来てをりぬ

工事現場に秋の蝶来てゐたる

春来る
植松大雄

いろいろなものに抜かれて春来る

早春のまだぼさぼさの雲のふち

おだやかに春吹きよせる中州かな

春泥の一番乗りの足のあと

犬の来て白酒の染み嗅ぎ当てぬ

雁風呂や読み人知らずの相聞歌

真夜中の飛行機雲のおぼろかな

春分の門をまばゆくくぐり行く

末黒野やはつかに昏き虹の縁

会うことのない人多し春疾風

暖かき壁にもたれて花疲れ

春うれい茎だけ残るパセリかな

後ろ手をしてアネモネの茎伸びる

かげろうの先は空なる出雲かな

ひときわの愁いをこめてしゃぼん玉

野遊びの弁当箱の軽さかな

春昼の天道虫のこそばゆき

レガッタや飛ぶに短き羽ならぶ

あげひばり大利根ひねもすそそぎおり

電柱の下埋もれるはおぼろ月



よこたはる
蓮菩

破水かも知れぬひとりの夏の月

大西日妊婦ごろりと横たはる

水澄みて生まれる時はほんの一瞬

生ぬるきモノ掴み出す夏の宵

遮光式土器そつくりや夏生まれ

大きさは顔の大きさ百合の花

百合の香や名は未だ無く漂へり

誉められて水羊羹を三つ食ふ

カラ元気大安売りや夏見舞

かなかなとかしましき夏すごしけり

少年の口一文字初嵐

真夜中の線路どこまで虫の声

惜別の墨跡太し九月尽

梨食うて恨めしき目で父見るな

ステッキの具合良好秋の空

秋めくや年寄り猫の通り道

まず青き発光があり虫時雨

定職を持たずふらふら牡蠣フライ

枸杞の実や琉球の酒器首細し

大振りの湯呑みに酌めりそぞろ寒

ネパール行
北野勇作

屋根の上猫の道あり雨期に入る

マンゴ売り眠たい犬の多い街

迷彩の模様の椅子のバスで行く

七人の侍で見たような田植え

ヤクに似た形の雲や赤い花

蝋燭の灯りに浮かぶ雨後の街

完全なる形の虹やポカラ夏

ダムサイド沈没したる日本人

水浴の順番待ちや水牛群

水牛は首だけ出して昼寝かな

去年の夏アメリカ人の落ちた場所

段々の田に映る青空の青

夏山や驢馬の通過を待つ二人

魚の尾の形の夏や驢馬の鈴

山下りてヤク印のゴム草履買う

夕立や尖った山の上は晴れ

停電の起こらぬ夜や黄金虫

紫の岩塩を買う夏である

夏の朝二頭の象について行く

お土産は小さき喇叭カトマンドウ


ベトナムコーヒ
東直子

夏山に石の神様ありにけり

虫よけの薬のにほひ父母眠る

夕焼や裏がへされし肉の面

朱に触れてきし指先や水澄める

浅草といふ終点や秋麗

発熱や梨が芯から透けてくる

靴下のゆるくたたまれ良夜かな

着ぐるみの瞳や花野迷ふ日の

逆縁や柿は剥かれて卓にあり

布裁てば空にあふるる紅葉かな

秋晴の神様の土踏まずかな

初霜や光の産毛地に充ちる

オムレツやみなつつましく目を閉ぢぬ

冬真昼ベトナムコーヒ甘かりき

さへづりや色えんぴつの削りかす

紅梅や嬰児は昼の湯に入りぬ

亀鳴くやがらんと頭痛する昼に

顔を洗ふ命得るとき終るとき

草若葉先をそろへて靴を脱ぐ

春光をあつめて馬の耳立てり

ほろほろ
          野沢雄

宿帳に偽名を記す栗の花

三河屋に大喰い姉妹夏来る

青簾大の字に寝る昼下がり

紫陽花やアールグレイを濃く淹る

昼顔やギターの弦を張り直す

禿親父顔赤くして蝉を捕る
 
革命の闘士老いたり桐の花

白萩や早寝の父の高鼾

秋めきてロック座に見る菩薩かな

もろこしや祖母の話に果てはなし

カフェオレの薄き皮膜や秋日和

新涼やひげ剃り後の痛がゆく

銀漢や友の訃報の唐突に

皆顔を上向きにして葡萄棚

赤とんぼ人の話は聞き流す

煙突の煤けし「湯」の字秋日和

松虫や恩賜の煙草湿り気味

鰹出し惜しまず入れてとろろかな

萩の風釣船越しに富士を見る

山門を覆い隠すや薄紅葉



青こだま
佐怒賀正美

かるがると軍鶏を越えたる蛙かな

ひきがへる銀河の渦を吐き出せり

夜向きの中年の胃かひきがへる

新年の真ん中に笑むかたつむり

石原八束一周忌
仮幻忌や蓮あらしの青こだま

蓮池わたる天道虫や八束の忌

涼しさや吊り天井に恐竜鳴く

噴水はくすぐられゐる父のやう

ブルドッグ佃祭りに連れまはす

向日葵や知恵洪水をなして過ぐ

佐渡六句
晩夏なる空木返しや流人墓地
(注)空木返し・・山で倒木音がする怪異現象
入道雲さへぎる木々や無宿墓

虫の闇に柱時計の顕(た)ちて透く

海鳴りの降りくる磨崖や灼けぼとけ

涼しさや朱鷺の子すでに影つくる

夏ゆくや佐渡の底から聳(た)つ大樹

中年は余白もけむりのうぜん花

奈落より水虫しのび来たりけり

脳撮られゐて空腹の晩夏なり

秋立つや血を絞り出すひと握り
マドヌグフ
亀山鯖男

雨の日のいちまん歩くあめんぼう
 
あらはなるからだのしくみいととんぼ
 
鰯雲ガーゼでくるむ下半身
 
海の日や五枚の布で窓ぬぐふ
  
鬼ごつこ首のかたちは推して知る

核家族かどはかされぬひつじぐさ
 
軽業をして薄野を頂きぬ

劇場のやうに生えたる荻の原

恋や手のひらはそよ風避くる為

更衣異性同食不眠症
 
細胞にまぶしてありぬ氷水
    
さくらんぼ道が動きませんように
 
石鹸の片面襲ふ秋の風
  
尖りたる影見てゐたり秋の暮

撫で牛や抽象的な絵日記に
 
ひまはりを大きな顔とおもひけり
 
枇杷の花ねぢを巻きます遅れます
 
分類や突起に満たさるる炎天

みなみかぜ甘いお菓子をたひらげる

夕焼けのドイツの人はやさしさう


万事快調
村井康司


ひるがほや死者に恋文届きをり

風つよき夏来て父の喉に孔

口といふ裂け目のかたち夜の秋

うづくまる旅客機の群れ初嵐

云ひつのるひとと歩きし良夜かな

道行のごとく虫棲むくらがりへ

鼻先の切なくなりて秋の暮

惜敗の校庭広き野分かな

秋風や大瓶の底濡れてをり

長き夜をパン種白く輝けり

はらゝごの赤や逆縁あひつぎて

万事快調うすらわらひも万事快調

指に唾つけて指のみ変身す

跛行してなゝめに背負ふ床柱

上がり来て取りいだしたる朴落葉

寒月や岩の中には岩の音

こがらしに詫びる男はずぼんむらさき

渋谷駅頭茂吉徘徊初時雨

おほぶりの超人論と鮃かな

やに臭き御者の帽子やクリスマス
Sugar Room Babies
優璃

双子なりここに世界は始まれり

しゃぼん玉どこへも行けぬ胎児かな

生まれないことを選びて薄暑かな

胎児よりモールス信号さみだるる

胎児らの名乗りをあげる皐月闇

雨男じぶんの雨に溺れけり

空見れば空の形の胎児かな

生まれぬ児のまぼろし見ゆるいなびかり

水澄みて胎内汚染進みけり

空深し呼吸のできぬ児らなれど

妻と児にセントエルモの火は降りぬ

胎児さへ息を呑みたる初日かな

生霊の還りてこの世の果を言ふ

引きこもる児らまぼろしをよく観けり

まっすぐに祈りを浴びて身じろがず

子宮にて睦み合ふ児ら世紀末

妻の胎に Sugar Roomと描きにけり

断層でのみ知る貌や底冷える

胎児からメール届く日春ともし

みどり児はみどりの星へ旅立ちぬ


秋の虹
一鮪


ほほづきや海図の四隅失ひぬ

年下の優しきひとよ蟹星雲

紫陽花のかたちの母の疲れかな

秋の虹ぬいぐるみの名加筆せり

狐火や牛若丸の瓜実や

オーロラや鬼は手の鳴る方へゆく












夏秋冬
鉄村明美

心臓に太陽描く冷瓜

カレンダー傾いてゐて茄子の花

いにしへの炎天にゐる爬虫類

横浜の気球に吸ひ込まれて夏

ひまはりや旗泥棒の去りし後

七匹の大きな蛇の名を呼べり

はすかひの皿に酢を入れ九月尽

舶来の菜種油や秋日和

冬めくや鱗ふたつの落ちる部屋

ぬひぐるみごとつかまへる寒さかな






三鬼立ち
寺澤一雄

短夜の三鬼立ちして良き姿

樟若葉葬のための場所空けよ

鉢巻きの田中右翼や子供の日

水槽で旅する魚卯月野に

理科の絵に糸瓜の水の取り方も

名月や粗煮の魚に素性あり

爽かや遅速を競ひ石崩る

学校で食ひし鯨肉皆思ふ

冬の海島を浮かせて船沈め

屋根裏を天井裏と言ひて秋

かたまりとしてのおばさん朴散華

朝曇パンに挟まれハム喰はれ

髭伸びし顔を惜しむや麦の秋

根の方で曲がる五月の始めかな

黒南風や同じ幟にそばうどん

夕桜妻の実家に住まひをり

靴底で運ばれし土渇く春

桃の日やモデルハウスに表札も

満開の枝垂桜や家荒れし

葱坊主あたりに海のにおひかな




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